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乗馬の障害競技の種類、ルール、競技の流れを解説

乗馬

1.はじめに

垂直障害を飛越する人馬を背後から撮った写真です。

障害馬術競技の起源は中世ヨーロッパにあり、騎士が戦場で馬を乗りこなすために技術を磨いたことが始まりと言われています。
19世紀には、障害馬術競技がスポーツとして認められ、国際競技大会が開かれるようになりました。

障害馬術競技とは、馬と騎手が協力して障害物を飛び越えたり、綺麗な動きを見せたりする競技です。世界的な大会であるオリンピックにも採用されており、美しく、正確な技術が求められます。

当記事では、障害馬術競技の基本知識、豆知識をまとめています。

2.障害馬術競技の種類

障害馬術競技の主な種類としては、以下の競技があります。

・標準競技
・スピード&ハンディネル競技
・トップスコア競技
・ダービー競技
・六段飛越競技

2.1 標準競技

障害物の落下が減点となります。規定時間内で減点が少ない人馬が上位となり、最小減点が複数いる場合には、その中で最もタイムの早い人馬が優勝するという方法と、ジャンプオフと呼ばれる優勝決定戦を行う方法とがあります。

(参考:日本馬術連盟のサイト)

2.2 スピード&ハンディネス競技

落下をタイムに換算します。落下による過失をタイムに換算して、実際の走行タイム(スタートラインからゴールラインまでにかかったタイム)に加えたタイムが早い人馬が上位となります。

(参考:日本馬術連盟のサイト)

2.3 トップスコア競技

障害物を落下させることなく飛越するたびに得点が加算されていく得点を争う競技です。

障害の高さや障害物の種類など難度によって10~120点のポイントが付けられており、制限時間内(45秒(最小限)から最90秒(最大限)までの間の指定時間)に、選手は自分の選んだ障害を自分の希望する順序と方向に飛越することができ、どれだけ多くの得点を獲得できるかを競う競技です。

コース上にはジョーカーと呼ばれる難度の高い障害物を1個設置しており、正しく飛越すると200点を獲得できますが、失敗すると200点の減点となります(ジョーカーは2回飛べます)。

また、スタートラインはどちらの方向から通過してもよく、走行タイムを記録するため、走行する人馬は必ずフィニッシュラインを通過しなければならず、フィニッシュラインを通過しなかった場合は失権となります。

なお、走行中にに落下した障害物は復旧されなく、それを再び飛越しても得点とはなりません。この競技では、コンビネーション障害はありません。
(参考:FEI障害馬術規定第27版)

2.4 ダービー競技

全長1.0〜1.3kmの走行距離にて、一般的な障害物と飛越数の50%以上が自然障害(注)が設けられたコースで行われる競技となり、各選手は3頭まで騎乗できます。

(参考:FEI障害馬術規定第27版)

(注)バンケット(小さな丘)・竹柵・生垣・池・水濠など

バンケット(小さな丘)を駈け下りる人馬です。

2.5 六段飛越競技

障害馬術の六段飛越競技とは、馬と騎手が一直線上に約11メートル間隔で設置された障害物を6つ連続して飛び越える競技です。

競技の目的は、できるだけ速く、正確に障害物をクリアすることです。競技は時間制限があり、最も短い時間ですべての障害物をクリアした者が勝者となります。
(参考:FEI障害馬術規定第27版)

6段障害を飛越する人馬で第5障害通過したところです。


※日本記録は、199cmとなります(2023年3月31日現在)。

(参考)ジャンプオフ

タイムレースとしない競技で、第 1 位で同減点となった場合はタイムレースのジャンプオフと呼ばれる優勝決定戦を 1 回行います。
他の選手については、初回ラウンドにおける減点によって順位を決定します。
(参考:FEI障害馬術規定第27版)

3.障害馬術競技グレード

日本馬術連盟が主催する公認競技では、障害馬術競技は以下の6つのグレードに分かれてます。
障害馬術競技では、各グレードで課題となる障害の高さや障害物の幅も障害馬術競技では、各グレードで課題となる障害の高さや障害物の幅も異なり、より高いグレードになるほど障害物の高さが高くなり幅も広くなります。

グレード名障害物の最大高
大障害A160cm
大障害B150cm
中障害A140cm
中障害B130cm
中障害C120cm
中障害D110cm
グレード一覧

(補足)全日本障害馬術大会に出場するため、障害馬術選手は、出場するグレードを「宣言」をする必要があります。(これを「グレード宣言」という。)
グレード宣言は随時変更できますが、変更するとそれまで加算してきたポイントは失効となります。
なお、グレード宣言したグレードと異なるグレードの競技に出場した場合は、ポイントは加算されません。
(参考:日本馬術連盟のサイト)

4.コースとスピード

経路障害を組み立てている光景です。

障害馬術競技では、馬が走るスピードは毎分350m~400mを基準にコースを設定してます。
(時速: 21~24km/h)
コースの長さは400~600mくらいで、障害の数は12~15個、飛越数は12~20個くらいです。

障害の数では、コンビネーション障害は1個と数えます、コンビネーション障害には複数の障害があるので、飛越数は含まれる障害の数になります。
例えば、トリプル障害は、1障害となりますが、飛越数は3つとなります。

参考ページ:https://mobile.twitter.com/jbg_shabaren/status/1422455264557502468

以下については、全日本障害馬術大会2022の経路図となります。
この経路図の上段を見ると、スピードが375m/秒、規定タイム(Time allowd)87秒、制限タイム(Time Limit)174秒、コースの長さ540m、障害の高さ(Heigh)150㎝、障害数(Obstacles)13、飛越数(Efforts)16となります。

全日本障害馬術大会2022の経路図

5.ペナルティ

標準障害飛越競技(基準A)(注1)では、走行中に次の事例にはペナルティが発生します。

(注1)障害馬術競技のなかで最もスタンダードな競技であり、「基準A(英語表記:table A)」とも称されます。

No過失の内容ペナルティ
1障害物の落下または転倒減点4
2第1回目の反抗または障害物の拒否、逃避減点4
3第2回目の反抗または障害物の拒否、逃避失権
4馬の転倒または騎手の落馬失権
5次の障害物を45秒以内に飛越しなかった場合、もしくは最終障害を飛越して
フィニッシュラインを通過するまでの所要時間が45秒を超えた場合
失権
6拒否して障害物を落下または転倒し、修復されなかったのにその障害を飛越した場合失権
7反対の方向から障害物を飛越した場合失権
8走行中にコースの一部ではない障害物を飛越したり、飛越しようとした場合失権
9コース上の障害物を抜かした場合、あるいは逃避や拒止の後にその障害物を
再飛越しなかった場合
失権
10順序を間違えて障害物を飛越した場合失権
11拒止の後に、落下した障害物が復旧されるのを待たずに飛越したり、飛越しようとした場合失権
12走行中断の後、ベルが鳴るのを待たずに障害物を飛越したり、飛越しようとした場合失権
13コンビネーション障害の閉鎖部分である場合を除き、拒止または逃避の後にコンビネーションのすべての障害物を再飛越しなかった場合失権
14走行中にコースの一部ではない障害物を飛越したり、飛越しようとした場合減点1
15制限タイムを超過した場合失権
16最終障害を飛越した後にフィニッシュラインの標旗間を騎乗で正方向から通過せず、アリーナを出た場合失権
17走行終了後にアリーナ内にある障害物を飛越したり、あるいは飛越しようとした場合失権
18出発の合図前に出発し、第1障害を超過した場合(ベル前スタート失権
19選手がヘルメットのヘッドギアの固定ポイントを的確に締めずに、またはまったく締めずに飛越したり、あるいは飛越しようとした場合失権
20競技中にイヤフォンおよび/または他の電子通信機器を装着している選手失権
21口に出血がみとめられる馬(注2)失権
22着水(水濠障害で馬の脚が水につく)減点4

(注2)明らかに馬が舌や唇を噛んだためと思われる口の出血など軽微な事例では、役員は口をすすがせたり血を拭き取る行為
   を許可し、当該選手の競技継続を認めることがあります。口にこれ以上の出血が確認された場合は失権とります。

フィニッシュライン通過後に選手の落馬または人馬転倒があった場合、失権とはなりません。

※(参考)クリアランド:ミスなく減点ゼロの満点走行のことをいいます。

(参考:FEI障害馬術規定第27版)

6.失権と失格

前述のとおりペナルティには、減点、失権がありますが、それ以外に失格があります。
失権と失格の違いは、以下のとおりです。

失権技術的な理由により走行を中止しなければならない場合で、それ以降は走行を続けては
    いけない状況のことで、審判員がそれを告げるベルを鳴らします。
失格ルールを守らなかったり、馬の虐待にあたる行為を行なったりした際に科せられるもの
    で、該当選手のその大会の全成績の抹消・出場停止などの厳しい処分が課されます。

※注意する主な失権(以下は失権となります)
・競技開始後に選手が徒歩でアリーナへ入場した場合
・競技場審判団の許可なくアリーナ内で練習したり障害物を飛越したり、飛越しようとした場合
・アリーナ内にある障害物や、次の競技に使用される障害物を飛越したり、飛越しようとした場合
・馬体のいずれかの部位で拍車や鞭の過剰使用を示唆する兆候があった場合
(追加措置を適用することもあります)
・馬の頭部を鞭で打つ、4回以上続けて馬を鞭で打つ、失権した後に鞭を使う馬などの虐待行為

(参考:FEI障害馬術規定第27版)

7.競技のマナー

7.1 服装

障害馬術競技の服装には、以下のようなルールがあります。

障害競技の服装
ジャケット色の指定はありません。外向きのボタンでなければなりません。襟付きジャケットの 場合、
ジャケットと同色か、他の色の折り返し襟でなければならない。襟なし ジャケットも認めら
れるが、前をとめた時にシャツの襟とタイが見えることが必須となっています。
シャツ長袖または半袖シャツ ※白の襟付きであること、長袖の場合は白い袖口であること
ズボン白または淡黄褐色の乗馬用ズボン(キュロット)
黒または茶色 の長靴(長靴は踵付き)
ヘルメット3点で固定された保護用ヘッドギア

※悪天候の場合
雨の場合、審判団の判断で、透明または半透明の防水服の着用が認められます。
暑い天候の場合は、 審判団の判断で、ジャケットなしも認められます
(脱ぐときは、袖付きのシャツでなければなりません)。

(参考:FEI障害馬術規定第27版)

7.2 馬装

障害馬術競技の馬装には、以下のようなルールがあります。

ブリンカー等馬の目を覆うブリンカーやフライマスクの使用は禁止されています。なお、頭絡の頬革上に、
直径3㎝以内の革、シープスキンもしくはこれに類する素材をあてることはできます。
マルタン可動式ランニング・マルタンガールのみ使用が許可されています。
銜・鼻革銜あるいは鼻革の規制はありません。
※審判団の判断で馬が怪我をしそうな銜あるいは鼻革の使用を禁止することがあります。
折り返し競技アリーナでの折り返しの着用は禁止です。
フラットワークの時は、馬場馬術用の鞭を使用できますが、アリーナとスクーリングエリア(注)
で横木通過や障害飛越をするときは、 75cmを超える長さの鞭を使用したり携帯することも禁止
されています。
プロテクターブーツにつけられる留め具は2ヶ所までとしており、マジックテープが1か所の場合幅5センチ間まで、2か所の場合幅が1つ2.5㎝までとなります。
スタッドタイプは伸縮性のある素材で、幅が2.5㎝以上、ホックタイプは伸縮性のある素材で、幅が2.5㎝以上となり、留め具はすべて⼀⽅向への使⽤となります。
後肢ブーツの下 にベットラップあるいはこれに類するバンデージ素材の使⽤は認められません。

(注)待機馬場(練習用場)のことで、少なくとも垂直障害1個と幅障害1個の練習用障害を配置されたエリアで、競技前に選手は、このエリアを使用してウォームアップをします。

7.3 敬礼

競技を開始する前、選手は敬意の意味合いで主審に敬礼しなければなりません。
競技場審判団は敬礼を怠った選手の走行開始を拒否することができます。

選手は敬礼の際にヘッドギアを外してはなりません。
鞭を上げるか頭を下げることで適切な敬礼とみなされます。

※主審は、審判塔にいることが多く、この場合、審判塔に向かい敬礼します。

スタート前の敬礼をする審判塔です。
審判塔

(参考:FEI障害馬術規定第27版)

8.競技の流れ

以下に標準競技の流れを説明します。

8.1 コースの確認

競技の前に競技場が開放され、選手はコースを見て歩き、コースを確認する時間があります(このことを「下見」という)。

馬は入ることができません。
選手は、コースの全体を把握し、障害物の数や配置、高さ、幅、曲がり角の数や位置などを確認します。

競技前の下見をしている光景です。
下見

コースプラン(経路図)のコピーについては、アリーナ入場口にできるだけ近い場所へ各競技開始の遅くとも 30 分前までに掲示されているので、選手はあらかじめこれを確認したうえで下見のときにすり合わせます。

競技前に壁に張り出されたコースプランです。
コースプラン

8.2 ウォームアップ

競技前に、スクーリングエリア内で馬をウォームアップします。
ウォームアップには、馬を常歩、速歩、駈歩し、障害を飛越することで、馬の体温を上げ、筋肉をほぐし、調子を整えます。

8.3 出番を待ち

選手は、競技関係者に声をかけられたら、練習をやめ、アリーナゲート付近で騎乗したまま出番を待ちます。

8.4 アリーナ入場

選手は、出番になったら、アリーナのゲートが開くので、騎乗した状態で審判棟付近に行き、主審に敬礼をします。

8.5 スタート

ベル鳴り競技が始まると、スタートラインから開始します。

8.6 飛越

選手は、アリーナに配置された障害物を誘導助走踏切飛越着地誘導といった流れで飛越し、決められたコースを周ります。

アリーナに配置された障害物を誘導⇒助走⇒踏切⇒飛越⇒着地⇒誘導といった流れ

8.7 フィニッシュ

選手が最後の障害物を飛び越え、ゴールラインを通過したときに、競技が終了します。

9.補足

9.1 走行タイムの計り方

走行タイムは、タイムキーパーが馬番号と走行に要した時間を電子計時システムを使用して記録します。また、タイムは 1/100秒まで記録します。
併せて、競技場審判団員は、電子計時システムが故障した時に備えて用意し、また不従順(注)でベルが鳴らされてから走行再開までの時間や中断の計測として、デジタル・ストップウォッチを使用します。デジタル・ストップウォッチも 1/100秒まで記録します。

中断した計測の再開については、時計が中断された地点に選手が戻った時点で、時計が再スタートされます。

(注)拒止(障害物の前で馬が停止する)、逃避(横に逃げる)、乗りての指示に従わないなどの反抗のこと。

電子計時システム
電子掲示版

(参考:FEI障害馬術規定第27版)

9.2 ポイントとランキング、全日本障害馬術大会の出場権

公認競技会で宣言したグレードの競技に出場し、ポイントを加算することによって、宣言グレードにおけるランキングを上げていきます。

そして、対象期間内でのランキング上位の馬に全日本障害馬術大会の出場権が与えられます。
ポイントは選手ではなく、馬に加算されるものであるため、全日本障害馬術大会で騎乗する選手は当該選手でもなくとも出場が可能です。

参考ページ:https://www.showjumping-journal.jp/about-jefofficialcompetitions/

9.3 カテゴリ

公認競技会は、★★★★(4 スター)、★★★(3 スター)、★★(2 スター)、★(1 スター)のカテゴリーに区分します。

星の数が多いほど競技レベルが高く、開催規模も大きくなります。

10.おわりに

障害馬術競技は、馬と騎手が協力して一体となって美しい動きを見せる競技であり、高い技術が求められます。
競技中に起こるミスやトラブルも見どころであり、緊張感がある点も魅力の一つです。騎手と馬の信頼関係を築くことが大切であり、それによってより美しい動きや高い技術を見せることができます。

障害馬術競技に興味がある場合は、乗馬クラブや学生であれば馬術部に参加してみることをおすすめします。
初めての方でも、基本から学べるプログラムが用意されている場合が多く、安心して参加することができます。

なお、「乗馬の障害飛越の基本姿勢、障害物の種類など基礎的な内容を紹介」につきましては、以下の記事にて詳細を記載しておりますので、ご興味をお持ちいただけましたら合わせてご覧ください。

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